【農業環境技術研究所 平成19年度 研究成果情報】
【黄砂とともに飛来する放射性セシウム(137Cs)】
[要約]
日本における137Cs大気降下量の変動に、黄砂現象が強く関与しています。顕著な降下が認められた事例について調査したところ、137Csを含む砂塵の主要な起源は大陸の草原域であるとわかりました。
[背景と目的]
137Csは半減期が約30年と長寿命の人工放射性核種で、公衆被曝の原因になっています。近年その大気降下量は低い水準で推移していますが、春季にピークが現れるという特徴が認められ、このことから黄砂現象の関与が考えられています。そこで137Csを含む砂塵の起源および輸送過程の解明を目的としました。
[成果の内容]
2002年3月には、青森や新潟など北日本や日本海側の複数地点で、チェルノブイリ原発事故以来最大となる137Cs大気降下量が記録されました(図1)。この時に浮遊粒子状物質(SPM)濃度の上昇も観測されており、砂塵の飛来が降下量増大の原因であったと推定されます。この事例では、同時期に大陸の草原域において砂塵の発生が顕著でした(図2)。
そこで中国北部の草原(図3)を対象に現地調査を実施したところ、深さ2cmまでの表土から比較的高濃度の137Csが検出されました(表)。こうした土壌中の分布は、降水量が少ないため137Csの下方への浸透が遅いこと、草原では植生被覆により表土の侵食が抑制され137Csの減損も小さいことから説明できます。また土壌中137Cs蓄積量と年間降水量の間に正の相関が認められたことから、この137Csは特定の核実験場や施設からの放出物ではなく、1980年代以前のグローバルフォールアウト(地球規模の放射性降下物)に由来することが判明しました。
大陸の草原では最近、気候変動や人為による砂漠化が進行しています。2001年から2002年にかけて中国北部は深刻な干ばつ条件下にありました。このため植生被覆が脆弱化し、2002年の春季には137Csを含む砂塵の発生が顕著になったと考えられます。
以上の成果は大気中137Csの主要な起源を特定したもので、農業環境への負荷となる137Cs降下の、将来の水準を予測する上で役立ちます。
4年程前の公的資料における結論。「農業環境への負荷となる137Cs降下の、将来の水準を予測する上で役立ちます」って早くも色々な意味で役に立ちそうなのが皮肉な話ではあるけど。以前【黄砂と放射能濃度一覧とグラフの変移と】でも触れた黄砂と放射性物質・放射能濃度の因果関係がすでに解析されていたということで、正直驚いている。今件周りでもっともっと関連事項として報じられてもおかしくない話なんだけどねえ。
【日本の自然放射線量】の各種リンクと合わせて読むと、さらに興味深いかも。もちろん)
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