【第4回 信用できないアンケート結果......唐木 英明 氏「誤解の恐ろしさ - 安全な食品とは」】
●『食べたい、安全!』ではなく『食べるな、危険!』でないと本は売れないというのは、テレビのドキュメント番組の視聴率なども同様ではないでしょうか。
●そうですね。だから、「危ない」、「危険」と言ったり、書いたり言ったりしないと、皆さんの注目を絶対に浴びないのです。そう言いながら、私この間この本を出した時に『牛肉安全宣言』と出版社がつけたので、「これは絶対に売れない。『牛肉危険宣言』だったら10倍売れる」と言いました。「いや、先生、それはできません」と言われましたが、やはり売れていません(笑い)。そういうものなのですね。
実は、食品に対する不安と同じことが社会学でも起こっているという指摘があります。「犯罪が増加してわれわれの安全が脅かされている。だから、もっともっと罰則を強化して、特に若者の犯罪を厳しく処罰しろ」なんていう意見がものすごく強いという現実があります。ところが、社会学者がちゃんと調べると、犯罪はそれほど増えていないのです。
最も危険な時期ということになれば、やはり戦後の混乱期です。むしろ今は非常に安全な時代なのに、犯罪が増えているかのように思うようになったのは、なぜなのか。これはメディアのせいだというのです。日本のどこかで起こった、あるいは世界のどこかで起こった特異な犯罪を毎日、毎日ワイドショーで取り上げると、皆、自分の周りで起こっていると誤解してしまうのです。われわれの認識の範囲というのは、まだ狩猟採集生活のときの認識の範囲でしかないので、自分が歩いている範囲のニュースだけが入ってくると皆、思い込んでいるわけです。でも実は地球の裏側で起きていることも入ってくるわけです。それを目の前のことと思わないと自分の命が危ない、というように感じる本能をわれわれはまだ持っているのです。だから今の情報の進化に追いついていないのです。
これはだれを責めることもできないのですけれども、でもそういう現象があるということをわれわれちゃんと認識しないといけないという深刻な問題が、食品の安全問題以外にもあるのです。
先日別所で「必要以上に危険性を煽って恐怖を覚えさせ、味噌を買わせたり著書を売ろうと模索したり、知名度を上げようとしたり、自分の有料メルマガの購読を半ば強要させようとするあたり、単なる悪質な新興宗教と同じではないですかね」云々という話をした際に、教えてもらったお話。要はタイトルにもあるように「危険を強調しないと見てもらえない」ってこと。
確かに人の生存本能を考えれば、生命の危険にさらされる情報には強い関心を抱くので、ネガティブな情報には強い関心を抱くのは当たり前の話。ただそれを悪用するのはどうかな、やみくもに恐れさせると中長期的には皆が痛い目に遭うよ......と思うのだな。繰り返し触れている話「正しく恐れよ」とはまったく逆のベクトル「とにかく恐れろ、そして俺の言う事を聞いて私財を投げ渡せ」だもんねえ。
あ。この原文、記載日が2011年1月ってのもポイントね。元々こういう問題があって、震災後にその問題点が非常に大きなレベルで広がったというわけだね。
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