「プロメテウスの罠」が新聞協会賞になる前の話。私は「罠」チームの記者に、「町田市の子どもが鼻血が止まらないなどという話をなぜ被ばくと関係あるかのように書くのですか」と問うたのに対し、その記者は「子どもの鼻血が止まらないと言っている女性がいるのは事実であり、それを報じた」。
— 斗ヶ沢秀俊 (@hidetoga) 2014, 9月 17
連載当時から関係者界隈からは色々と指摘されていたものの、結局連載は継続され出版化され、しかも新聞協会賞まで受賞した『プロメテウスの罠』。扱いにくい、制御が難しい巨大な力を意味する「プロメテウス」という言葉を使うあたりから、色々と原子力周りを揶揄する言い回しとして、当人らはしてやったりというネーミングだったんだろうけど、先の「吉田調書」で関連記事の確からしさレベルで疑念が投げかけられる昨今では、むしろ特大ブーメラン状態となりつつある。その一端を垣間見れるお話。
私「専門家の大多数は、福島県民の被曝レベルでは鼻血は出ないと言っている。まして、東京の女性ですよ」。朝日記者「低線量でも鼻血などの症状が出ると言っている専門家もいます」。私「それはきちんとした根拠なしに言っていることです。調べれば分かることでしょう?」。
— 斗ヶ沢秀俊 (@hidetoga) 2014, 9月 17
朝日記者「(低線量被曝により鼻血が出るかどうかについて)どちらの側が正しいか、我々は判断する立場にはないですから」。私「科学的根拠のあるなしは判断しなければならないでしょう」。というようなやり取りでした。正直に言って、がっかりしました。
— 斗ヶ沢秀俊 (@hidetoga) 2014, 9月 17
新聞社は「中立報道」を建前にしており、論争的な問題については、両論併記することが多い。このため、原発事故後の報道では、低線量被曝の影響について、スタンダードな見解と、より危険視する見解を並べる記事がたくさん掲載されました。事故後しばらくは仕方がなかったとも思います。しかし、
— 斗ヶ沢秀俊 (@hidetoga) 2014, 9月 17
東京都民のごくわずかの被曝量で、被曝に起因する鼻血が生じるなどというのは、荒唐無稽と言えることです。被曝の危険性をより大きく見るべきだと主張する専門家でさえ、東京都民の鼻血を被曝と結びつけることはしないでしょう。結びつけるのは「罠」に出ていた肥田医師ほか、ごく一握りの方だけです。
— 斗ヶ沢秀俊 (@hidetoga) 2014, 9月 17
それでも、「子どもの鼻血が止まらないと言っている女性がいる。被曝と関係する可能性がある」と記事にしたのが、「プロメテウスの罠」でした。掲載当時、私はずいぶん、批判ツイートをしました。そんな記事を含む連載が新聞協会賞を取ったことには、大いに失望させられたものです。
— 斗ヶ沢秀俊 (@hidetoga) 2014, 9月 17
ツイッターでは、朝日新聞が一連の問題について検証する際、「プロメテウスの罠」についても検証してほしいと求めるツイートをいくつも見ました。私もそうすべきだと思います。しかし、新聞協会賞を取った企画を俎上に載せる勇気が朝日新聞にあるかどうか。おそらくないだろうなと思います。
— 斗ヶ沢秀俊 (@hidetoga) 2014, 9月 17
案の定一連のツイートに対しても斜め上な、「お前それは論点が違うだろう」的な逆切れレスポンスが確認できるけど、それはさておき。この手法って先の「美味しんぼ」の表現問題において3回作の最期に編集部がやらかした「識者の意見」としてまともな研究者とトンデモ界隈の人達を同列に並べた手口と似通っているんだよね。
新聞社は報道機関でもあるけど同時に言論機関でもある。だからこそテレビのような報道機関的なレベルでの規制と比べれば緩やかだけど、報道機関だからこそ許されている、守られている部分も多い。その報道機関としての立ち位置の前提は「中立報道」。読者も多分にそれを認識して読んでいる。そのような環境下で、恣意的な内容を表記し、恣意的であることを明らかにしないってのは、要するに「嘘つき」と評されても仕方のない所業。
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