①日本語のローマ字化計画と断念 http://t.co/pkpUyZ3dic 1948年(昭和23年)春、日本の教育状況と日本語に対する無知と偏見から、
— 不破雷蔵(懐中時計) (@Fuwarin) 2014, 10月 31
先日の【ネットで確認できる戦後からの内閣府の世論調査が面白い】関連で戦争直後の日本の動向を調べていた際に見つけたお話。興味のある統計データのソースを探していたら、こんな話に遭遇したよ、というもの。
概要としては次の通り。
1948年(昭和23年)春、日本の教育状況と日本語に対する無知と偏見から、「日本語は漢字が多いために覚えるのが難しく、識字率が上がりにくいために民主化を遅らせている」とする、ジョン・ペルゼル (John Campbell Pelzel)という若い将校の発案で、日本語をローマ字表記にしようとする計画が起こされた。
当時東大助手だった言語学者の柴田武は、民間情報教育局 (CIE) の指示によって、この読み書き全国調査のスタッフに選ばれ、漢字テストの出題を任された。これは日本初の「無作為抽出法(ランダムサンプリング)」の実施でもあり、統計数理研究所研究員の統計学者だった林知己夫が被験者のサンプリングを行った。
こうして1948年(昭和23年)8月に、文部省教育研修所(現・国立教育政策研究所)によって実施された、15歳から64歳までの約1万7千人の老若男女を対象とした全国試験調査「日本人の読み書き能力調査」であったが、その結果は、漢字の読み書きができない者は2.1%にとどまり、「日本人の識字率が100パーセントに近い」という世界的に見ても例を見ないレベルだった。
柴田はテスト後にペルゼルに呼び出され、「字が読めない人が非常に多いという結果でないと困る」と遠回しに言われたが、柴田は「調査結果は捻じ曲げられない」と突っぱね、ペルゼルもそれ以上の無理押しはしなかったという。結局、日本語のローマ字化は撤回された。
教育に絡んだ無知な、偏見による、さらには私服を肥やすための、無謀で馬鹿げた発想ってのはどの世界でも時代でも起きうることで、それが一度社会の仕組みに乗ってしまうと、たとえそれが間違いであることを皆が知っていても、すぐに正せるわけではないのが困りもの。ルールに従って取り除かないと、ルールそのものが順守されなくなってしまうからね。今件はそうなる事態を何とか防げたというもの。
で、今件についても文中で語られている調査「日本人の読み書き能力調査」について、その内容そのものが資料の形で【日本労働年鑑 第26集 1954年版 第一部 労働者状態 第五編 労働者の生活】に収録されており、そのほぼ全貌を確認することができた。表記自身にまったく間違いはなかったことも判明(【魚拓取っておこう】)。表など詳細図版が無いのは残念だけど、調査結果の要旨は十分習得できる。
今件は結局戦争直後の日本の文盲率の異様なまでの低さが立証されたから事なきを得たけれど、この調査の調査方法に何らかの問題が生じて高めの値が出たり、あるいはジョン・ペルゼル将校の圧力に屈してデータの改ざんがなされ、それを元にローマ字化が果たされていたらどうなっていたことやら......。考えるだけでも背筋が凍る。
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