渡鬼みたいに一緒に暮らす家族があれだけ言いたいことをズケズケ言い合って翌日からまた何事もなかったかのように暮らせるなんて現実にはあり得ないわけだから、あのドラマを楽しみにしている層がいるっていうのは、自分の代わりに言いたいことを登場人物に言ってもらって溜飲を下げているのだろうな。
— あらあら (@wasmachstdujetz) 2015, 5月 30
「渡鬼」ってのは「渡る世間は鬼ばかり」のことで、TBSの家庭テレビドラマ。2011年まで放送されていたから、観た人も多いはず。人間関係ではとかく苦労が多いってのをドラマに盛り込んだもので、まるで登場人物同士がテレパシーの持ち主のごとく心境・内情を把握していたり、自分の思っている心境や漫画的な心理描写、内面的な気持ちを長文にして語らせるあたり、配慮や遠慮が薄れた社会ってこんな感じになるのかな、という見方もできる。
同時に指摘の通り、一度あれだけ思いのたけを言いまくって翌日から何もなく生活するってのは、SFなどによく見られる「一日が毎日繰り返される世界」「深夜0時に前日の記憶が全部無くなる空間」「短時間の記憶はすべて忘れてしまう伝染病がまん延した世界」みたい感じすら覚える。それは実際には有り得ない。しかるにあのドラマの人気ってのは、本当ならやってみたいけれどとても出来ない、心のうちに秘めた思いを代弁してもらっているってのがあるんだろう。
言っていいことと悪いことがある、それを言っちゃあおしめえよ、という判断ができることが大人ってもんだし、大人は裏表がなくちゃいけないのさ。みんながみんな本音でしか話せなかったらコミュニケーションなんて成り立たない。言葉は気持ちを表すものでもあり隠すためのものでもある。
— あらあら (@wasmachstdujetz) 2015, 5月 30
もうこの人とは金輪際付き合わない、なんと思われても構わない、一切縁を切るって覚悟があるなら、言いたいこと全部言うのもありかもとは思うけど、言ってすっきりするタイプと余計もにょるタイプがいると思うので、その辺はケースバイケースですかね。
— あらあら (@wasmachstdujetz) 2015, 5月 30
ただ、言葉ってのは諸刃の剣で、役に立つ時もあれば自分を傷つける事もある。自分の都合の良いように振り回し続けると、自分自身も傷ついてしまう。コミュニケーションは良くキャッチボールに例えられるけど、自分が好き勝手な方向にボールを投げていたら、相手はボールを受け止めるのをあきらめて放置したり、受けたボールを足蹴にして潰してしまう、手にしたままその場を後にしてしまうかもしれない。本音をぶつけることが必要な場面もあるけれど、本音を単にしゃべることと、相手に伝えるのとでは意味がまったく違う。
そう、先の【交渉術と、「怒ったことで語られる言葉が本音だとしても、それはその人の心情、本質のすべてを示した本音なのだろうか」という話】の冒頭で挙げた、某代議士の質問が質問では無くて演説になっているのと同じだね。見方を変えれば、たとえそれが交渉術だと自称していても、コミュニケーションの観点では非常に欠けた存在として認識せざるを得ない。
大人には内面的なものと外面的なものがあるし、それぞれにおいて複数の側面を併せ持つ。本音を語り合えば気が楽になるかもしれないけれど、それはキャッチボールなら複数の人が四方八方好き勝手にボールを投げるようなもので、単なるボール投げ大会と化してしまい、意思疎通など不可能になる。それは言語が通じていないのと同じ。
一人一人は歯車のようなもので、それぞれは微妙に形が異なるので、そのままではかみ合いは不可能。その部分をどうにか調整するために、粘土のような緩衝剤的なものが体面として存在し、言葉の形を伴って相手に伝えられていく。粘土を中間に挟むことで、形の異なる歯車同士でもくっついて意志疎通、付き合い、コミュニケーションが可能になる。本音同士のぶつかり合いはよほど運が良くなければかみ合わない。
ネタ話的に、会社を辞める時に洗いざらい溜まっていた鬱憤を上司に晴らす形で語るって状況、武勇伝的なものがある。指摘の通り一切縁を切る覚悟がありならそれも一興。でもその後に、相手はともかく、自分自身が満足いく状況を維持できるかは確証が持てない。逆にもやもや感を増してしまうかもしれない。
そう考えると、最初でネタ的な表現として使った「自分の心の内がすべて他人に暴露され、他人の心がすべて読めるような世界」なんてのは、地獄でしかないし、プライバシーってのは、本音と建前の仕切り分けってのは、とても大切なんだな、と改めて思わざるを得ない。そういや「攻殻機動隊」やら「GS美神」でもその周りの話、個人の深層心理や本音の部分に他人が覗き込むことの問題や忌避感ってのは、取り上げられていたのを思い出した......ってマニアな話で〆たりする。
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