「徴兵制」という言葉のトレンドかつワイルドカードさ

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先日も一度一覧表込みの記事で解説もしているけれど、結局「戦争法案」などというものはその名前では一切用いられていないし、戦争そのものの定義も曖昧(な方がプロパガンダる側には都合がよい)。「徴兵制」も今件の安保法案とは直接の関係は無く一度も肯定・明文として出てこないどころか、否定すらされている。にも関わらず繰り返されるのは、それが間違いや誤解や煽りであっても、人々を驚かすのには効果があるから。「おおかみが来たぞ」や「恐怖の大王がやってくる」と同じレベルなんだよね。

今回話題に登ったお話も、要は最後の一段落の部分を語りたいがためのものでしかなく、それ以外はすべて前説で、しかも意味の無いのらりくらのとした話ばかり。さらに最後の一段落部分「あるかもしれない」の話ですら、設定があまりにも強引すぎ、その設定の元での可能性云々を問うのなら、どのような話でもアリとなってしまう。

「徴兵制の復活はありえる、あるえるが...今回、まだその時と場所の指定まではしていない。そのことをどうか諸君らも思い出していただきたい つまり...我々が実際に思っている可能性は100万分の1かも1000万分の1かもしれないし、その時も10万年20万年後でも嘘では無い、ということ......」

カイジの某有名なセリフをベースにしたネタだけど、まさに実際としてはこんな感じで「徴兵制はあるかも」と語っているのと同じ位。それに「憲法解釈が云々」という話もあるけれど、それとて以前から何度となく多方面で行われているし、集団的自衛権に限っても以前は容認されており、一時期封印されていたのを、情勢に応じてという事に過ぎない。

さまざまな可能性を想定し、その上で起きうる話を考える事自体は悪くない。むしろ可能性追求と対応力の充足の観点ではプラスとなる。一方でその期待値を無視した、想定されうるのならすべて期待値は100%との発想、それを他人に押し付けるのは、いわゆる「ゼロリスク論」と同じで愚かでしかない。

事実上無理な結論を導き出すために、無茶な設定をさもありがちなように呈しても、「そのレベルの設定を持ち出すのなら、何でもありになりますよ?」という結論に至る。それを他セクタの専門家がその権威を使って行い、その中身を読んで頭が痛くなる、という話が結構増えてきたような気がする。

この辺りの手法は逆説的に、架空戦記をはじめとした「もしも」話を構築する際に、どの部分の歴史をいじれば上手く思惑通りのストーリーラインに誘導できるかなとの点で使う場合が多く、思考ゲームをよくする人、物語を書く人なら、「ああ、また無茶ぶりだな」というのがすぐに分かる。何しろやり方が同じだから。

先日の【色々な歴史の可能性が見えてくる...「日本の分割統治計画」という話・後日談】でもちらりと触れているけど、例えば「日本の分割統治世界」とか「東西分割後の日本社会」を書きたいのなら、ルーズベルトの寿命を延ばすことでシフトさせやすくなる次第。まぁ、バタフライ効果とか色々ありますので、その辺の設定は本格的にやるとなると結構メンドイのだけどね。

ここまで無理難題な設定の上で、「徴兵制がありうるかも」というのなら、文言・言及も無く完全否定された事に「有り得る」と語り手側の想定のみで煽るのなら、むしろ「GDP成長をドルベースで主張したのだから、米国の占領下に置かれて基軸通貨を米ドルにする事を企んでいる」「院内での暴力行為を肯定したのだから集団的な暴力による議会転覆、議会制民主主義の停止を模索している」の方が可能性は高いぐらい。でもそんな前提で対象を非難したり、特定セクタの権威が懸念を表明したって話は無いでしょ? おかしな話には違いない。

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このページは、不破雷蔵が2015年8月 9日 07:26に書いた記事です。

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