@azukiglg 星新一は、「戦争反対、平和」と唱えるだけの行為は「病気反対、健康」と唱えて病気を避けようとするに等しいと言っていました。
— 荒木 九郎 (@stein00000) 2015, 11月 18
呪詛とか魔法の呪文とか、もう少し科学的・心理学的な切り口でなら暗示や自己承認、洗脳的な観点でなら、繰り返し特定対象の文言を口にしたり文字に書き記す事は、効果がゼロというわけでは無い。「絶対合格」と筆書きにした貼り紙を目に付く場所に貼って受験勉強をするとか、「今月のノルマは●×件」と書いた宣言と実際の件数の進捗を壁に貼りつけるってのは良く見る光景。
だから厳密には、自分自身に対する唱え事がまったく影響を持たないわけではないので、「病気反対、健康」と唱えることで病気が避けられないとは言い難い。ただ、ゼロではない程度、思い込みに寄る偽薬効果的なもの。加えて「繰り返しの暗示」から生じる「ならば何をしなければならないか」という話への衝動・モチベーション作りがメイン。「健康」を唱え続けているうちに、「ならば健康を維持するために早寝早起きをして、暴飲暴食を止めねば」と無意識に行動指針のかじ取りをするって感じ。
で、それらは当然本人自身の問題である以上、第三者への影響を及ぼすはずもなく、自然現象に影響を与えもしない。自分自身に健康を唱え続けるのとは異なり、「戦争反対、平和」と唱えるだけの行為は、それ自身だけでは意味が無い。そこからさらに、その意思を現実のものにするのにはどのような行動を成す必要があるのか、そして反対している事象が生じたら、どのような手立てを講じておけば最小限に事態を悪化させずに済むのか。それを考え、実行することが正しい大人の行動様式。......ってこれ、「地震反対」と叫んでいても地震が起きないわけじゃないってのと同じだな。
この辺りの話は、以前【「市場経済制、市場経済制、市場経済制」と三度同じ言葉を唱えさえすれば】でも言及した、「遥かなる星」での名言と同じ。「その通りだ。だが、誰もかれもが、その言葉を唱えた途端に、すべてが変化すると信じ込んでいる」「恐らく彼は「市場経済制、市場経済制、市場経済制」と三度同じ言葉を唱えさえすれば、薄汚れてしまったこの青い星の赤い大地が白く変わると信じているのだろう」的な。
実際には文言を唱えただけでは、状況の回復を果たす事はできない。けれど、その事実を知っていても、詠唱者自身の精神的な安寧は確保できる。少なくとも自分は何か努力をしたとの達成感は得られる。さらに第三者への公知は、特に多数の人が望むような状況を文言にした場合には、少なからぬ同意を得られるため、優越感も確保できる。その観点では、確かに「戦争反対、平和」との言葉は、もっとも安価で確実な「呪文」には違いない。ただしその効用を得られるのは、社会環境ではなく、言葉を見聞きした不特定多数の人達でも無く、語り手本人である。
言葉は単なる音では無く、意味の集合体であり、第三者への意志の疎通を行うツールであり、時間を超えて意味を伝達できるタイムマシンですらある。だからこそ、大きな力を持つのだけど、その力の効用をカン違いすると、色々と間違ったかじ取りをしてしまったり、不利益を被ることになる。そしてそれを意図的に、あるいは無意識のうちに行い、周囲をかく乱し、自らを富ませる人がいる。気を付けねばならないことは言うまでもない。
コメントする